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交通事故による脊髄損傷―後遺障害等級認定と賠償の全体像
交通事故で脊髄損傷を負った被害者とご家族へ。
後遺障害等級の認定基準、将来介護費・逸失利益の考え方、早期相談の重要性を、旭川の交通事故被害者側専門弁護士が解説します。
交通事故で脊髄を損傷すると、手足の麻痺、感覚の消失、排尿・排便障害など、全身に深刻な後遺症が残ることがあります。
脊髄損傷は、後遺障害のなかでも特に重い類型に位置づけられ、認定される等級によって、賠償額は数千万円を超える規模で変動します。将来介護費、住宅改造費、介護器具費など、他の後遺障害では生じにくい賠償項目が加わるためです。
このコラムでは、脊髄損傷の後遺障害等級の仕組み、賠償の全体像、そしてご本人・ご家族が知っておくべきポイントを整理します。
Ⅰ 脊髄損傷とは何か
脊髄は、脳から続く中枢神経の束で、背骨(脊椎)の中を通っています。脳からの指令を全身に伝え、全身からの感覚情報を脳に返す、いわば「情報の幹線道路」です。
交通事故で脊椎に強い衝撃が加わり、脊髄が損傷を受けると、損傷部位より下の運動機能・感覚機能が失われたり、低下したりします。損傷の部位と程度によって、症状は大きく異なります。
損傷部位による症状の違い
頚髄(首の部分)の損傷:両手・両足の麻痺(四肢麻痺)が生じます。損傷が高い位置であるほど、自発呼吸が困難になることもあります。最も重い類型です。
胸髄(背中の部分)の損傷:両足の麻痺(対麻痺・下半身麻痺)が生じます。上肢の機能は保たれますが、体幹のバランス維持に障害が残ることがあります。
腰髄(腰の部分)の損傷:下肢の運動障害・感覚障害が生じます。歩行が可能な場合もありますが、膀胱・直腸障害(排尿・排便の制御困難)を伴うことが多くあります。
「完全損傷」と「不完全損傷」
脊髄損傷は、「完全損傷」と「不完全損傷」に大別されます。
完全損傷は、損傷部位以下の運動機能と感覚機能が完全に失われた状態です。四肢麻痺や対麻痺が、回復の見込みなく固定されます。
不完全損傷は、一部の機能が残存している状態です。一部の指が動く、感覚が部分的に残っている、歩行が補助具で可能、といった状態が含まれます。不完全損傷の場合、リハビリテーションによって一定の機能回復が期待できることもありますが、完全な回復に至ることは困難です。
Ⅱ 後遺障害等級の仕組み――脊髄損傷で認定される等級
脊髄損傷で認定される可能性のある後遺障害等級は、おおむね以下のとおりです。裁判基準(いわゆる赤い本基準)の後遺障害慰謝料の目安もあわせて示します。
別表第一(介護を要する後遺障害)
1級1号(常時介護):四肢麻痺などにより、生命の維持に必要な身辺動作について常時介護を要する状態です。食事、排泄、入浴、着替えなどの日常動作全般に他者の介助が必要です。後遺障害慰謝料の目安は約2,800万円です。
2級1号(随時介護):四肢麻痺または対麻痺があり、随時の介護を要する状態です。自力で一部の動作が可能ですが、常に見守りまたは声かけが必要な場合が該当します。後遺障害慰謝料の目安は約2,370万円です。
別表第二
3級3号:生命の維持に必要な身辺動作は可能であるが、労務に服することができない状態です。後遺障害慰謝料の目安は約1,990万円です。
5級2号:脊髄症状のため、きわめて軽易な労務のほかに服することができない状態です。後遺障害慰謝料の目安は約1,400万円です。
7級4号:脊髄症状のため、軽易な労務以外の労務に服することができない状態です。後遺障害慰謝料の目安は約1,000万円です。
9級10号:神経系統の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限される状態です。後遺障害慰謝料の目安は約690万円です。
12級13号:局部に頑固な神経症状を残す状態です。画像所見で脊髄損傷が確認でき、それに対応する神経症状がある場合に認定されます。後遺障害慰謝料の目安は約290万円です。
なお、膀胱機能障害(排尿障害)が残存する場合は、上記とは別に泌尿器の機能障害として等級認定される場合があり、併合されて最終的な等級が決まることがあります。
※上記はあくまで一般的な目安であり、個別事案の事情により異なります。金額は裁判基準に準拠していますが、最新年度版の算定基準で確認が必要です。
Ⅲ 脊髄損傷の賠償が高額になる理由――慰謝料だけではない
脊髄損傷の賠償額が他の後遺障害に比べて高額になる最大の理由は、後遺障害慰謝料だけでなく、以下のような賠償項目が加わるためです。
将来介護費
1級・2級に認定された場合、生涯にわたって介護が必要となります。この「将来介護費」は、被害者の平均余命にわたって計算されることが多いため、若い被害者ほど高額になります。たとえば、20代で四肢麻痺を負った場合、将来介護費だけで1億円を超えることがあります。
介護の態様(職業介護人か、家族介護か)、介護の時間(24時間か、日中のみか)、介護の内容によって金額が変わります。この論点は保険会社との間で激しく争われることが多い項目です。
逸失利益
脊髄損傷により就労が困難になった場合、事故がなければ得られたであろう将来の収入を「逸失利益」として請求できます。等級に応じた労働能力喪失率(1級・2級は100%、5級は79%、7級は56%、9級は35%、12級は14%)を基準に算定されます。
住宅改造費・車両改造費
車椅子生活が必要になった場合、自宅のバリアフリー化(段差解消、手すり設置、浴室・トイレ改造、エレベーター設置など)や、自動車の改造(手動運転装置、車椅子対応車両への変更など)の費用も賠償の対象になり得ます。
介護器具・装具の費用
車椅子、電動車椅子、介護用ベッド、褥瘡(じょくそう)予防マットなどの費用が、買い替え周期を考慮して将来分まで請求できることがあります。
これらを合算すると
脊髄損傷の1級・2級のケースでは、後遺障害慰謝料(2,800万円〜2,370万円)に加えて、将来介護費、逸失利益、住宅改造費などが積み上がり、賠償総額が1億円を超えることは珍しくありません。それだけに、等級認定の段階でどの等級が認められるかが、ご本人とご家族の今後の生活を決定的に左右します。
Ⅳ 等級認定で争点になりやすいポイント
脊髄損傷の等級認定は、一見すると画像所見で客観的に判断できそうに思えますが、実務上はいくつかの争点が生じます。
争点1:「完全損傷」か「不完全損傷」かの評価
完全損傷と不完全損傷では、認定される等級に大きな差が生じることがあります。MRI画像所見と臨床症状(どこまで動くか、感覚が残っているか)の整合性が、医学的に精密に検討されます。
争点2:既往症・加齢変性との区別
中高年の被害者の場合、もともと頚椎に加齢による変性(椎間板の変性、脊柱管の狭窄など)がある方は少なくありません。保険会社は、これらの既往症が症状の原因であるとして、事故との因果関係を争うことがあります。
この争点は、事故前の症状の有無、画像所見の経時的変化、受傷機転の程度などを総合的に検討する必要があり、医学的知見に基づく立証が不可欠です。
争点3:介護の必要性と程度
1級(常時介護)と2級(随時介護)の境界線、2級と3級(介護不要だが労務不能)の境界線は、日常生活動作のどの範囲で介助が必要かによって判断されます。日常生活の実態を、具体的かつ詳細に記録し、医師の所見と合わせて立証する必要があります。
Ⅴ 早期のご相談が重要な理由
脊髄損傷のケースでは、他の後遺障害以上に早期の弁護士相談が重要です。
第一に、治療中から将来の立証を見据えた準備が必要だからです。入院中のリハビリ経過、日常生活動作の変化、介護の実態などを、記録として残しておくことが、後の等級認定申請で決定的な意味を持ちます。
第二に、症状固定の時期の判断が難しいからです。脊髄損傷は、リハビリテーションによって一定期間は機能の改善が見込めるため、「いつ症状固定とするか」が大きな判断になります。早すぎる症状固定は、まだ改善する可能性のある段階で等級を確定してしまうリスクがあります。
第三に、将来介護費・住宅改造費など、生活設計に直結する賠償項目が多いからです。実際にどのような介護を受けるか、どのように住宅を改造するかは、治療・リハビリの初期段階から検討を始める必要があります。弁護士が早期に関与することで、賠償を見据えた生活設計のアドバイスが可能になります。
Ⅵ ご本人・ご家族からのご相談
脊髄損傷のケースでは、ご本人の入院が長期化していることが多く、ご家族がまず相談に来られることが一般的です。脊髄損傷被害者の場合でご本人の外出が難しいような場合、当事務所では、ご家族のみのご相談を歓迎しています。入院先の病院への出張相談にも対応します。
ご相談料はご本人負担0です。お手元に事故関連の資料があればご持参ください。
まずは、事故の経緯と現在の治療状況をお聞かせいただくだけで、今後の見通しと、やるべきことの優先順位をお伝えできます。
大石法律事務所は、交通事故の被害者側のみの受任を方針とする、旭川・道北地域の事務所です。保険会社との顧問関係はなく、被害者とそのご家族の立場からのみ、ご相談をお受けしています。
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