message & diary
message & diary
後遺障害診断書―主治医にお願いする前に知っておきたいこと|旭川の交通事故被害者側専門弁護士が解説
後遺障害等級認定の鍵を握る「後遺障害診断書」。
交通事故の解決実績300件以上・弁護士経験17年、被害者側専門の旭川の弁護士が、「後遺障害診断書」のこと、後遺障害診断書の主治医への依頼のタイミング、記載内容のポイント、よくある問題点と対処ついて解説します。
交通事故でケガを負い、治療を続けても完全には治りきらない症状が残る――。その場合、「後遺障害等級」の認定を受けることが、適正な賠償を得るための出発点になります。
そして、等級認定の手続きで最も重要な書類が「後遺障害診断書」です。
後遺障害診断書は、主治医に作成を依頼する書類ですが、主治医は「治療の専門家」であって「後遺障害認定の専門家」ではありません。どのような内容が記載されるかによって、認定される等級が変わることは珍しくありません。
このコラムでは、後遺障害診断書とは何か、主治医に依頼する前に知っておくべきポイント、よくある問題と対処法を整理します。
Ⅰ 後遺障害診断書とは何か
後遺障害診断書は、正式には「自動車損害賠償責任保険後遺障害診断書」と呼ばれる書式で、自賠責保険の等級認定手続きで使用されます。A3サイズ1枚の定型書式であり、主治医が記入します。
この書類は、通常の診断書とは性格がまったく異なります。通常の診断書は「現在の病名と治療内容」を記載するものですが、後遺障害診断書は「治療を尽くしても残存した症状」を記載するものです。
等級認定の審査機関(損害保険料率算出機構)は、この診断書の記載内容と、添付される画像資料・検査結果をもとに等級を判断します。後遺障害診断書に何が書かれているか(そして何が書かれていないか)が、等級認定の結論を大きく左右します。
Ⅱ 主治医に依頼するタイミング―「症状固定」とは
後遺障害診断書は、「症状固定」の時点で作成されます。症状固定とは、治療を継続してもこれ以上の改善が見込めない状態に達した、という医学的判断です。
症状固定の判断は誰がするのか
症状固定は、原則として主治医が医学的に判断するものです。保険会社ではありません。
しかし実務上は、保険会社から「そろそろ症状固定ではないですか」「治療費の支払いを打ち切ります」という連絡が入ることがあります。これは症状固定の「判断」ではなく、保険会社の「意向」です。この連絡をもって治療を終了する必要はありません。
症状固定のタイミングは、被害者にとって重要な判断です。早すぎる症状固定は、まだ改善する可能性のある段階で後遺障害の内容を確定してしまうリスクがあります。逆に、医学的に改善が見込めない状態で治療を漫然と継続しても、認定上のメリットはありません。
保険会社から「治療費打ち切り」を言われたら
保険会社から治療費打ち切りの連絡があった場合、すぐに治療を中断するのではなく、以下を検討してください。
- 主治医に「まだ治療の必要があるか」を率直に相談する
- 主治医が「治療の必要がある」と判断する場合は、その見解を保険会社に伝える
- それでも打ち切りを通告された場合は、健康保険に切り替えて通院を継続しつつ、後日の賠償請求で治療費を請求する選択肢がある
- この段階で弁護士に相談することで、対応の選択肢が広がる
Ⅲ 後遺障害診断書の記載内容―何が書かれるのか
後遺障害診断書の書式には、以下のような項目が設けられています。
主な記載項目
- 傷病名
- 症状固定日
- 自覚症状(被害者が訴える症状を、主治医が聞き取って記載)
- 他覚症状および検査結果(画像所見、神経学的検査結果など、医師が客観的に確認した所見)
- 関節機能障害がある場合の可動域測定値
- 障害内容の増悪・緩解の見通し
このうち、等級認定に特に重要なのは「自覚症状」と「他覚症状および検査結果」の2項目です。
「自覚症状」の記載が重要な理由
「自覚症状」欄には、被害者が訴えている症状が記載されます。しかし、主治医がすべての症状を漏れなく聞き取って記載してくれるとは限りません。診察時間は限られており、被害者自身がすべての症状を正確に伝えられないこともあります。
たとえば、「首が痛い」と伝えただけでは、「頚部痛」としか記載されないことがあります。しかし、実際には「首を回すと右腕にしびれが走る」「長時間の同じ姿勢で悪化する」など、より具体的な症状があるかもしれません。こうした詳細が記載されているかどうかは、等級認定に影響し得ます。
「他覚症状および検査結果」が等級の根拠になる
等級認定の審査では、被害者の訴え(自覚症状)だけでなく、それを裏づける客観的所見の有無が問われます。画像所見(MRI、CT、レントゲンの異常)、神経学的検査(筋力テスト、感覚検査、腱反射など)の結果が、この欄に記載されます。
12級と14級の分かれ目には、画像上の他覚的所見の有無が重要な判断要素となります。画像上の異常所見と、神経学的検査の異常が一致していれば12級が認定されやすく、自覚症状のみで客観的裏づけに乏しければ14級にとどまる(あるいは非該当になる)傾向があります。
Ⅳ よくある問題――後遺障害診断書の「落とし穴」
後遺障害診断書の記載に関して、実務上よく見られる問題点を挙げます。
問題1:自覚症状の記載が不十分
前述のとおり、被害者の訴えが十分に記載されないことがあります。主治医が「治療上重要でない」と判断した症状が省略されたり、複数の症状が一言にまとめられたりすることがあります。
対策として、後遺障害診断書の作成を依頼する前に、自分の症状を箇条書きにしたメモを用意し、主治医に渡すという方法があります。「痛い場所」「どういう動作で悪化するか」「日常生活でどんな支障があるか」を具体的に整理しておくと、記載が充実します。
問題2:必要な検査が実施されていない
後遺障害の立証に必要な検査が、治療の過程で実施されていないことがあります。たとえば、関節の可動域制限が残っている場合、可動域を角度で計測する検査が必要ですが、治療中には行われていないことがあります。
角度の測定方法についても、日本整形外科学会、日本リハビリテーション医学会などのワーキンググループが作成した「関節可動域表示ならびに測定法改訂について_pdf」に基づいて測定される必要がありますが、必ずしもそうなっていない場合がある、というのが現状です。被害者になった場合、患者さんとして測定方法を知っておき、あまりに違う角度が記載されているようであれば医師に測定方法などをお尋ね頂くのが良いと思います。
また、関節可動域については「他動」「自動」の2パターンを計測する必要がありますが、一方しか計測されていないことは頻繁にあり、また、1つの記載ですと自動と他動のどちらを計測したのかもわからない、という事態にも陥ってしまいます。これも患者さんとして知っておいて、両方をお願いする、という意識があても良いでしょう。
症状固定の前に、今の症状を裏づけるためにどのような検査が必要かを確認し、不足があれば主治医に相談して追加検査を依頼することが重要ですが、その不足を知るためには、後遺障害診断に詳しい弁護士に相談するよりほかないように思います。
問題3:前医の治療経過が反映されていない
交通事故では、救急搬送された病院と、転院後のリハビリ病院や整形外科が異なることが一般的です。後遺障害診断書を書くのは、通常は症状固定時点の主治医ですが、その医師が事故直後からの治療経過を十分に把握していないことがあります。
事故直後の画像所見、手術記録、初期のリハビリ経過などの情報が後遺障害診断書に反映されていない場合、認定に不利に働く可能性があります。前医の診療記録を取り寄せ、現在の主治医に提供しておくことが有効です。
Ⅴ 特有の問題点
以上のような一般的な問題点に加え、後遺障害診断特有の問題もあります。
例えば、先ほど記載した関節可動域の測定。
健側(怪我をしていない側の関節)との比較で、3/4以下になっていないと後遺障害として認定されません。
健側が180度動くときに、患側(後遺症が残った関節)が135度であれば12級(約500~1000万円の補償)、140度であれば非該当(補償なし)という結論になってしまうことがあります。
たった5度でそんなに補償額が0か、1000万円近くになるのか、という違いが起こり得る、ということです。
5度の違いで結論が異なることが意識されれば、後遺障害診断書作成時には厳密に測定を頂くことが求められますが、必ずしも厳密に測定されていないことが散見されます。
被害者としては、自身の後遺障害が、後遺障害診断書に正確に把握されるように、ポイントを絞って医師にお願いをする必要があります。
よく、「いや、診断書に書いてあるより動かないんですけどね」とおっしゃる相談者に出くわしますので、注意が必要です。
Ⅵ 弁護士に相談すべきタイミング
後遺障害診断書に関して、弁護士への相談が特に有効なタイミングは以下です。
第1に、事故直後からのご相談です。早い段階からご相談いただくことで、治療中の検査・記録の整備を計画的に進めることができ、結果的に後遺障害診断書の質が高まります。
第2に、症状固定が近づいた段階です。主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する前に、どのような検査が必要か、どのような記載内容が認定に影響するかを確認しておくことで、「記載不足による非該当・低等級」を防ぐことができます。
第3に、保険会社から治療費打ち切りを通告された段階です。症状固定のタイミングを保険会社に決められてしまうと、準備不足のまま等級認定手続きに入ることになります。
第4に、等級認定の結果に納得できない段階です。認定された等級が実態と合わない、非該当とされたが症状は残っている、という場合は、後遺障害診断書の記載内容に問題がなかったかを検証し、異議申立てを検討することができます。
もちろん、
Ⅶ 最後に
後遺障害診断書は、被害者の症状を紙の上に「翻訳」する書類です。どれほど深刻な症状が残っていても、それが診断書に正しく記載されなければ、認定手続き上は「ないもの」として扱われます。
主治医は治療の専門家であり、「後遺障害認定の書式にどう記載すれば伝わるか」を知っているとは限りません。これは主治医の能力の問題ではなく、治療と認定が異なる制度であるがゆえの構造的な問題です。
だからこそ、後遺障害診断書の作成前に、交通事故の後遺障害に精通した弁護士に相談する意味があります。
当事務所では、後遺障害等級認定に関するご相談を無料でお受けしています。ご来所が難しい場合は、電話・オンライン相談にも対応します。
大石法律事務所は、交通事故の被害者側のみの受任を方針とする、旭川・道北地域の事務所です。保険会社との顧問関係はなく、被害者の立場からのみ、ご相談をお受けしています。この記事は、交通事故の解決実績300件以上・弁護士経験17年の弁護士大石剛史(旭川弁護士会)が執筆しました。
関連記事