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関節可動域制限の後遺障害―測定方法と、等級認定で見落とされがちなポイント|旭川の交通事故被害者側専門弁護士が解説
骨折・脱臼後に残る関節可動域制限。
測定方法、等級認定の基準(4分の3・2分の1以下)、測定の落とし穴と被害者側が注意すべき点を、交通事故の解決実績300件以上、弁護士経験17年の旭川の被害者側専門弁護士が解説します。
交通事故で骨折や腱板損傷を負った後、骨は治癒し、腱は修復されたものの、関節が以前のようには動かない――。手が肩の高さまで上がらない、膝を完全には曲げ伸ばしできない、足首が硬くて歩きにくい――。このような「関節可動域制限」は、骨折・腱損傷後の後遺障害として、頻繁に問題になります。
関節可動域制限は、画像所見が比較的明確で、神経症状のように「証明が難しい」類型ではありません。それにもかかわらず、後遺障害等級の認定の現場では、適正な等級が認められないケースが少なくありません。原因の多くは、測定方法の理解の不足にあります。
このコラムでは、関節可動域制限の認定基準、測定の正しい方法、他動値と自動値の評価、腱板損傷後の特殊性、被害者側が注意すべきポイントを整理します。
Ⅰ 関節可動域制限の等級認定基準
関節可動域制限は、損傷を受けた関節と、健康な側の関節(健側)を比較して、可動域がどの程度制限されているかで等級が判断されます。
「機能障害」の基本的な等級区分
上肢・下肢の主要な3大関節(肩関節、肘関節、手関節、股関節、膝関節、足関節)について、可動域制限の程度により、概ね以下のように等級が分かれます。
- 関節の用を廃したもの(強直または完全弛緩):8級・10級
- 関節の機能に著しい障害を残すもの(健側の2分の1以下に制限):10級・12級
- 関節の機能に障害を残すもの(健側の4分の3以下に制限):12級・14級
具体的な等級は、損傷を受けた関節(肩、肘、膝など)と、上肢か下肢かによって異なります。たとえば、肩関節の機能に著しい障害を残す場合(健側の2分の1以下)は10級10号、軽い障害を残す場合(健側の4分の3以下)は12級6号、というように分かれています。
「健側との比較」が原則
関節可動域制限の認定で重要なのは、反対側の健康な関節(健側)との比較で判断されることです。被害者本人の事故前の状態が分からない以上、「もう一方の手・足の関節と比べて、どの程度動かないか」が判断の基準になります。
そのため、後遺障害診断書には、損傷側だけでなく、健側の可動域も必ず測定して記載することが必要です。これを怠ると、認定に必要な比較ができず、等級が認められないことがあります。
Ⅱ 可動域の測定――他動値が原則、医学的理由があれば自動値
関節可動域の測定には、医学的に定められた標準的な方法があります。日本整形外科学会・日本リハビリテーション医学会が定める関節可動域表示ならびに測定法に従って測定されるのが原則です。
主な測定要素
関節可動域の測定では、以下の要素が記録されます。
- 運動方向:屈曲・伸展、外転・内転、外旋・内旋など、各関節ごとに測定する方向が定められている
- 角度:ゴニオメーター(角度計)を使って5度刻みで測定
- 他動運動と自動運動:他者が動かす場合(他動)と、自分で動かす場合(自動)の両方を記録することが望ましい
「他動値」と「自動値」
これは実務上、極めて重要なポイントです。
他動値とは、他者(医師、理学療法士)が被害者の関節を動かして測定した値です。物理的に動く範囲を示します。
自動値とは、被害者が自分の力で関節を動かせる範囲のことです。日常生活や労務において、実際に被害者が使える可動域です。
後遺障害等級の認定では、原則として他動値が評価の対象となります。理由は、他動値が客観的に物理的可動範囲を示すものであり、心因的要素や詐病の影響を排除できるからです。「動かしたくない」といった主観的な要素が混入する可能性のある自動値より、客観性が高い他動値が原則的な評価対象になります。
例外:自動値で評価される場合――「自動値が制限される医学的理由」がある場合
ただし、他動値が常に評価されるわけではありません。
他動値では十分に動くが自動値が制限されている、という場合に、その自動値の制限に医学的理由があるときは、自動値が評価されます。
「自動値が制限される医学的理由」として、典型的には以下が挙げられます。
- 神経損傷:末梢神経麻痺、神経根損傷などにより、筋肉に動かす指令が届かない
- 筋力低下・筋萎縮:長期固定や神経損傷の二次的影響として筋力が低下している
- 腱の損傷・断裂:腱板損傷、アキレス腱断裂など、筋力を関節に伝える組織の損傷
これらの医学的理由が明確に立証できる場合、自動値の制限が評価対象となり、より重い等級の認定に結びつく可能性があります。
Ⅲ 測定段階で起こりがちな問題
後遺障害認定の現場では、可動域の測定をめぐって、いくつかの典型的な問題が生じます。
問題1:他動値・自動値の片方しか測定されていない
主治医が後遺障害認定の仕組みに詳しくない場合、後遺障害診断書に他動値または自動値の片方しか記載されていないことがあります。両方を測定・記録してもらうことが、適正な評価の前提です。他動値と自動値に差がある場合は、その理由(医学的根拠)も診断書に記載してもらう必要があります。
問題2:健側との比較がされていない
後遺障害診断書に、患側(損傷側)の可動域しか記載されていないケースが見られます。健側との比較ができないと、認定の判断ができません。
問題3:参考可動域だけで判断されている
医学書には「肩関節の屈曲は180度」など、標準的な可動域(参考可動域)が示されていますが、これは平均値であり、個人差があります。健側がもともと参考可動域より動かない場合、患側を参考可動域と比較すると、実際より制限が軽く見えてしまうことがあります。
あくまで本人の健側との比較が原則です。
問題4:測定する医師による誤差
関節可動域の測定は、医師や理学療法士の技量による誤差が出ることがあります。ゴニオメーターの当て方、関節の動かし方、測定時の被害者の状態などにより、5度・10度の差が出ることは珍しくありません。
等級認定は5度単位で判断されることがあるため、この測定誤差が等級を分けることがあります。
問題5:症状固定時期と測定の関係
骨折・腱損傷後のリハビリ期間中は、可動域が日々変化します。リハビリで改善するため、症状固定が早すぎると本来より制限が残っている状態で測定され、逆に症状固定が遅すぎるとリハビリで改善した後の値が測定されてしまうことがあります。
適切な症状固定時期の判断が、可動域制限の正確な立証につながります。
Ⅳ 被害者側が注意すべきポイント
① 後遺障害診断書の作成前に確認すること
主治医に後遺障害診断書の作成を依頼する前に、以下を確認してください。
- 患側だけでなく、健側の可動域も測定されているか
- 各運動方向(屈曲、伸展、外転、内転など)が漏れなく測定されているか
- 他動値と自動値の両方が記載されているか
- 他動値と自動値に差がある場合、その医学的理由(神経損傷、腱板損傷など)が診断書に記載されているか
記載漏れがあれば、症状固定前に追加の測定を依頼することが重要です。
② 自動値が制限される医学的理由を明確に記録する
他動値より自動値が小さい場合、その差が「医学的理由のあるもの」として記録されることが重要です。神経損傷、筋力低下、腱板機能不全、瘢痕化など、可能な限り具体的な医学的根拠を診断書に記載してもらうことが、自動値による評価を求める前提になります。
③ 専門医・リハビリテーション科への受診
骨折を治療した整形外科で症状固定の診断書を書いてもらうのが一般的ですが、可動域制限の評価は、リハビリテーション科の医師の方が詳しいことがあります。必要に応じて、リハビリテーション科の意見書を併用することも検討する価値があります。
④ 機能訓練の記録
リハビリ期間中の可動域の経時的変化を記録しておくことが、後の立証で役立ちます。リハビリ担当者が記録している可動域の数値を、本人も把握しておくとよいでしょう。
Ⅴ 等級認定後の異議申立てによる変更
可動域制限について、最初の認定で「非該当」または期待より低い等級だった場合でも、異議申立てで結果が変わることがあります。特に、以下のようなケースでは、異議申立てを検討する価値があります。
- 健側との比較が記載されていなかった
- 他動値または自動値の片方しか測定されていなかった
- 自動値の制限に医学的理由がある場合に、それが診断書に記載されていなかった
- 測定方向の一部が漏れていた
- 症状固定後に再評価したところ、認定時と異なる結果が出た
異議申立てでは、追加の可動域測定、リハビリテーション科の意見書、画像所見の再評価などを併せて提出することで、結果が変わる可能性が高まります。
Ⅵ 最後に
関節可動域制限は、神経症状などと比較すれば、客観的に評価しやすい後遺障害です。それにもかかわらず、測定方法の問題、健側との比較の不備、診断書記載の漏れ、腱板損傷後の機能不全の立証不十分などにより、本来認められるべき等級が認められないケースが少なくありません。
被害者の側で、後遺障害診断書の作成段階から、何を測定すべきか、どう記載すべきかを把握しておくことが、適正な等級認定への近道です。
当事務所では、可動域制限を含む後遺障害認定のご相談を無料でお受けしています。後遺障害診断書の作成前、作成後の認定結果が出る前、認定結果が出た後、どの段階のご相談にも対応します。
大石法律事務所は、交通事故の被害者側のみの受任を方針とする、旭川・道北地域の事務所です。保険会社との顧問関係はなく、被害者の立場からのみ、ご相談をお受けしています。
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